大阪高等裁判所 平成11年(ネ)3179号 判決 2000年4月28日
控訴人
A
外一二名
右控訴人一三名訴訟代理人弁護士
岩﨑昭德
被控訴人
株式会社アプラス
右代表者代表取締役
石合正和
右訴訟代理人弁護士
竹森茂夫
被控訴人補助参加人
株式会社ワイドグループ
右代表者代表取締役
的場作則
同訴訟代理人弁護士
七尾良治
主文
一 原判決を取り消す
二 被控訴人の請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とし、補助参加に関する費用は第一、二審とも補助参加人の負担とする。
事実
第一 当事者の求める裁判
一 控訴人ら
主文同旨。
二 被控訴人
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人らの負担とする。
第二 当事者の主張
一 原判決の引用、補正
1 当事者双方の主張は、次の二、三のとおり附加するほかは、原判決の「第二 事案の概要」欄(一〇頁一行目から四七頁七行目まで)に記載のとおりであるから、これを引用する。
2 ただし、次のとおり補正する。
(一) 原判決一二頁四行目、一四頁三行目、一六頁二行目、一八頁二行目、二〇頁一行目、二一頁末行目、二三頁一〇行目、二五頁九行目、二七頁八行目、三一頁八行目、三三頁七行目、三五頁八行目の「遅滞金の支払」をいずれも「延滞金の支払」と改める。
(二) 同三六頁末行目の「子供をもち」を「子供を持つ控訴人らの」と改める。
(三) 原判決四三頁一〇行目の「被告らに対し」を「例えば、控訴人A、同Bに対し」と改める。
(四) 同四四頁一、二行目の「六万九二八〇円」を「七万四九五六円」と改める。
二 控訴人らの当審附加主張
1 補助参加人の控訴人らに対する勧誘の態様、セールストーク、家庭教師の教材使用と再度の教材販売契約(第二契約)の経緯は、別紙(一)の該当欄記載のとおりである。補助参加人は、家庭教師の無料体験学習などと宣伝しながら、実際には補助参加人の単なる販売員を訪問させた。そして、補助参加人が責任を持って家庭教師を指導、監督すると信用させ、「家庭教師を頼むにはこの教材が是非とも必要」と言って、控訴人らに異常に高価な価額で本件教材を売り付けた。
2 しかし、家庭教師を頼むのに、あるいは家庭教師に教えてもらうのに、本件教材は何ら必要ではなかった。確かに、補助参加人から教材を買えば家庭教師を派遣してもらえたが、家庭教師は特別な指導者でなく、単なるアルバイト学生であった。せっかくの高価な教材は、家庭教師が全く使用しなかったかあまり使用せず、使ったとしても子供達を教えるのには殆ど効果がなかった。
3 本件教材の販売価額が異常に高額であったことは、次の二点からも明らかである。
(一) 販売価額三二万一〇〇〇円のポールポジションを販売すれば、販売員は一五万五六八五円もの報酬を手にすることができた。その仕入値はわずか三万八〇〇〇円にすぎなかった。
(二) ポイント5(中二、三年分)について言えば、定価は九万二〇〇〇円であるところ、補助参加人は、これを三万一二八〇円で仕入れて、一七万円で売っていた。
4 もっとも、控訴人Gについては、家庭教師をつけてまで受験勉強をさせる気がないと断ると、販売員は、「自分が勉強を見る」「いつでも解約できる」などと言って本件教材を購入させ、また、クーリングオフを妨げた。控訴人Kについては、「家庭教師は無料」と言って本件教材を購入させている。
5 本件は、本来、高価でない中学生の学習用教材を異常な高価で訪問販売した事案である。そもそも、補助参加人は、訪問販売にあたり、顧客が教材を購入するかどうか、その対価の相当性を判断できるように、教材の値段が個別に分かるように契約書に明示すべきであった(訪問販売等に関する法律〔以下、訪問販売法という〕四条、五条)。ところが、補助参加人の販売員は、商品名として、単にワイドB・Pなどと記載した書面を交付していただけである。契約目的物、契約の履行、対価についても、訪問販売法五条の二第一項に反した不実告知をしている。
三 補助参加人の反論
1 補助参加人の教材販売代金は、同業者の同種教材の販売価額と同額程度である。例えば、補助参加人は、控訴人Aに対し、ポールポジションを三二万一〇〇〇円で、ポイント5を一七万円で売り渡している。しかし、仕入合計は六万九二八〇円であり、その他に消費税、契約社員に支払う報酬、経費(箱代、発送費、人件費)等を控除すると、利益は殆どないのである。補助参加人の販売価額は相当なものである。
2 補助参加人の販売員らは、教材の販売に当たって、各教材のカタログと数冊の教材を持って控訴人ら方を訪問し、各教材の内容を説明し、その販売価額を告げている。右説明に当たって虚偽の事実を述べていないし、販売価額も正確に告げており、控訴人らを欺罔していない。控訴人らも、右説明、価額を聞き、子供の学力などに応じて必要と思われる教材を選んで購入したのであるから、購入に際して何らの思い違いもない。
3 本件教材と家庭教師との関係はセットになっていない。補助参加人の販売員らは、顧客が教材を買い、家庭教師の派遣を希望する場合にのみ、顧客に対し、家庭教師が教材に基づいて学習を進めることを説明している。実際にも、家庭教師は、右説明どおりに、本件教材に基づき指導している。以上は、控訴人Gが、家庭教師の派遣を受けず、教材のみを購入していることからも明らかである。
4 控訴人らは、本件売買契約日から一五日以内には教材の納品を受けており、この時点で本件教材の内容を知りうる。したがって、補助参加人の販売員らがした教材の内容などの説明と、現実に納品された教材との間に食い違いがあれば、控訴人らからクレームがある筈である。ところが、控訴人らのうちの誰一人として、平成八年一二月までは、教材購入代金の支払拒絶をしたり、クレームを申し出た者はなかった。このことからも、販売員らは、教材の内容、価額などについて、きっちりと説明していることが明らかである。
理由
第一 判断の大要
当裁判所は、大要次のとおり判断する。その理由の詳細は、後示第二ないし第四で説示する。
一 事実の概要
1 当事者
補助参加人は教材の訪問販売等を業とする会社であり、被控訴人は売買代金の立替払等を業とする信販会社である。控訴人ら一三名は、本件売買契約締結当時、高校受験を控えた中学生をもつ親であった。
2 本件売買契約、クレジット契約の締結等
控訴人ら一三名(殆どが中学二年生の子供を持つ母親)は、平成五年九月七日から平成七年六月一五日にかけて、補助参加人から、代金一四万六〇〇〇円から四九万一〇〇〇円までの価額で、中学生の学習用教材を買い受ける旨の契約(本件売買契約)を締結した。
被控訴人は、控訴人らとの間のクレジット契約に基づき、補助参加人に対し、本件教材代金を立替払した。控訴人らは、本件クレジット契約に基づき、被控訴人に対し、右立替金(教材代金)に手数料を加算した金額(割賦代金)を月賦払にて支払う旨を約した。
二 当事者の主張
1 被控訴人は控訴人らに対し、本件クレジット契約に基づき、立替金等残金(三万六〇〇〇円から三九万一六〇〇円まで)、及びこれに対する年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 これに対し、控訴人らは、本件教材の売買契約は補助参加人の詐欺によるものであり、取消の意思表示をしたから本件売買契約は無効である。それ故、控訴人らは、割賦販売法三〇条の四第一項に基づき、被控訴人に対し、本件立替金(割賦金)の支払を拒絶できると主張した。
三 当裁判所の認定判断
本件売買契約は補助参加人の詐欺によるものである。その理由は、次のとおりである。
1 取引条件等を記載した契約書面の不交付
補助参加人の販売員らは、控訴人らの自宅を訪問し、控訴人らと本件売買契約を締結した際、取引条件(商品名及び商品の商標、商品の種類、数量、販売価格)やクーリングオフに関する事項を明らかにした契約書面(訪問販売法五条、四条)を交付していない。
もし、補助参加人が、本件売買契約の締結に際し、右各事項を明らかにした契約書面を交付しておれば、控訴人らは、本件教材を購入しなかったか、クーリングオフの期間内に、本件売買契約を解除していた可能性が大である。
2 不実事項の告知
(一) 控訴人ら(控訴人Gを除く)について
(1) 同控訴人らは、補助参加人の販売員から次のとおり説明されたので、本件教材の購入を決断した。
イ 高校合格まで面倒を見る優秀な家庭教師を紹介する。
ロ 家庭教師を頼むには、本件教材が是非とも必要である。
ハ 補助参加人が家庭教師に本件教材の指導方法を講習する。
(2) ところが、実際は次のとおりであった。
イ 補助参加人が派遣した家庭教師は単なるアルバイト学生であった。
ロ 家庭教師は本件教材を殆ど使わなかった。
ハ 補助参加人は家庭教師に本件教材の教授法等の指導をしなかった。
(二) 控訴人Gについて
(1) 控訴人Gの妻G'子は、補助参加人の販売員が、「気にいらなければ途中解約ができる。」「分からないことがあれば教えに来る。」と言って勧誘したため、本件教材を買うことに決めた。
(2) ところが、G'子は、娘が気にいらなかったので本件教材の解約を申し出たが、販売員は解約を認めなかった。また、販売員は、G'子から勉強のことについて質問されても、教えに来なかった。
3 異常に高額な教材販売価額等
補助参加人は控訴人らに対し、二万二八〇〇円から一一万八一四一円で仕入れた本件教材を、一四万六〇〇〇円から四九万一〇〇〇円の価額で販売していた。契約を取ってきた販売員は、教材販売価額のほぼ半分を報酬として受領していた。
販売員らは、控訴人らの子供の学習能力、意欲等の適性に合わせるのではなく、顧客である控訴人らの顔色、懐具合、注意力等を見て、売り付ける教材の種類、内容、数量を決めていた。個々の子供の学力、意欲や勉強目的に合わせて教材が選択され、販売されたものではない。
4 第二契約の詐欺商法
補助参加人は、平成六年一〇月から、「本部直轄管理システム」の口実で、既に教材を購入している顧客に対し、本部自らが生徒を指導すると称して、現に派遣している家庭教師を辞めさせ、新たに教材の二重売りを始めた。同システムに基づく教材の二重売り(第二契約)は詐欺商法である。
本件売買契約(第一契約)後、控訴人ら一三名中、一一名が教材の二重売りの被害に遭い、残り二名もその勧誘を受けている。補助参加人が組織ぐるみで第二契約による詐欺商法を計画実行していることは、翻って本件売買契約(第一契約)の詐欺の成否の判断の間接事実(事情)の一つとして考慮すべきものである。
四 まとめ
1 本件売買契約は、いずれも補助参加人の詐欺によるものであり、控訴人らの取消の意思表示により無効となった。控訴人らは、割賦販売法三〇条の四第一項に基づき、被控訴人に対し、本件立替金(割賦金)の支払を拒絶できる。
2 したがって、被控訴人の本件立替金請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。ところが、原判決は、本件売買契約が補助参加人の詐欺によるものとは認められないとして、被控訴人の請求を認容している。よって、原判決を取り消し、被控訴人の請求を棄却する。
第二 前提事実
控訴人らと被控訴人とのクレジット契約の締結、被控訴人の補助参加人への教材代金の立替払、控訴人らの被控訴人への割賦金の返済、被控訴人の控訴人らに対する延滞金の支払催告については、原判決一〇頁五行目から三五頁九行目までに記載のとおりであるから、これを引用する。
第三 事実の認定
一 当事者
補助参加人は教材の訪問販売等を業とする会社であり、被控訴人は売買代金の立替払等を業とする信販会社である。控訴人らは、本件売買契約締結当時、高校受験を控えた中学生をもつ親であった(当事者間に争いがない)。
二 第一契約関係
証拠(原審AないしM事件の甲一、甲二、乙一ないし一〇、乙一七、乙二八ないし三五、乙四〇、乙四一、乙四六、丙一八〔一部)、丙二五の1ないし3、丙二七ないし四一、控訴人A本人、証人G'、リコーエレメックス株式会社からの調査嘱託に対する回答)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 本件売買契約の締結、売買代金、仕入価額等
(一) 控訴人ら一三名(殆どが中学二年生の子供を持つ母親)は、別紙(二)記載のとおり、平成五年九月七日から平成七年六月一五日にかけて、補助参加人から、代金一四万六〇〇〇円から四九万一〇〇〇円までの価額で、中学生の学習用教材(本件教材)を買い受ける旨の契約(本件売買契約)を締結した。控訴人らのうち二名は父親であるが、いずれも母親が父親名義で本件売買契約を締結し、後日父親がそれを追認したものである。
被控訴人は、控訴人らとの間のクレジット契約に基づき、補助参加人に対し、本件教材代金を立替払した。控訴人らは、本件クレジット契約に基づき、被控訴人に対し、右立替金(教材代金)に手数料を加算した金額(割賦代金、一七万七五三六円から六四万一二四六円まで)を、一二回ないし三六回の月賦払にて支払う旨を約した。控訴人らの既払額(九万二五八八円から三七万二九〇二円まで)、残代金額(三万六〇〇〇円から三九万一六〇〇円まで)は、別紙(二)の該当欄記載のとおりである。
(二) 控訴人らが購入した教材は、別紙(二)の「購入教材」欄に記載のとおりである。その出版元は、「ポールポジション」が株式会社日本教育出版、「ビルダー」が株式会社学書、「ポイント5」「ディリーエース」「中学カルテ」「グレード5」「フリーダイヤル」がリコー教育機器株式会社(後日、リコーエレメックス株式会社に事業譲渡)である。
補助参加人が日本教育出版、株式会社学書、リコー教育機器から仕入れた教材の仕入価額は、別紙(二)の「仕入代金」欄記載のとおりである。もっとも、補助参加人は、ポールポジションの仕入価額は、一律に三万八〇〇〇円と主張している。しかし、控訴人らが購入したポールポジションは、二科目から五科目までまちまちである。ポールポジションの仕入価額は、二科目も五科目も同額ということは考えられない。そこで、別紙(二)記載の仕入価額は、ポールポジションについて、一科目当たりの仕入価額を七六〇〇円(三万八〇〇〇円÷五科目)に換算して計算し直したものである。
補助参加人は、別紙(二)の「仕入代金」「売買代金」欄記載のとおり、控訴人らに対し、二万二八〇〇円から一一万八一四一円までの価額で仕入れた本件教材を、一四万六〇〇〇円から四九万一〇〇〇円までの価額で販売していた。
(三) 補助参加人の販売員らは、控訴人らの自宅を訪問し、控訴人らと本件売買契約を締結した際、契約書面としては、控訴人らに対し、ワイド教育クレジット契約書(又はワイド総合クレジット契約書)(原審AないしM事件の甲一)を交付しただけである。
そこには、商品名として、別紙(二)の「契約書の商品名」欄記載のとおり、「ワイド受験B・P」などと記載されているだけである。商品の種類、数量、クーリングオフに関する事項は記載されていない。
(四) リコー教育機器(信用のある業界大手の学習教材会社)、株式会社学書は、その販売する教材に定価を定めていた。その定価は、別紙(二)の「購入教材」欄に定価としてカッコ書きで記載のとおりである。補助参加人は、これらの教材について、リコー教育機器や株式会社学書が定めている定価を大幅に超える価額で、控訴人らに販売していた。
リコー教育機器や株式会社学書は教材の定価を定めているが、教材自体には定価が記載されていない。そのため、控訴人らは、本訴に応訴するまで、補助参加人がリコー教育機器、株式会社学書が定める定価を大幅に超える価額で本件教材を販売していた事実を知らなかった。
(五) それでも、補助参加人は、リコー教育機器が自社教材に定価を定めていたため、定価を著しく超える価額でリコー教育機器の教材を販売することが憚られた。
他方、日本教育出版は、昭和六三年一月に設立されたばかりの資本金一〇〇〇万円の零細企業であり(乙四一)、定価も定めていなかった。そのため、補助参加人は、日本教育出版の教材(ポールポジション)であれば、安い価額で仕入れ異常に高い価額で販売して、大幅な利鞘を稼ぐことができると考えた。
そこで、補助参加人は、高額の教材を販売できる顧客については、信用のあるリコー教育機器の教材(ポイント5)と、大幅な利鞘を稼げる日本教育出版の教材(ポールポジション)を巧みに抱合せて販売している(別紙(二)のNO.1、2、4、9、10、11、13の購入教材欄参照)。
(六) 補助参加人の販売員(契約社員)の給与体系は、基本給、保障給がなく、完全歩合制であった。控訴人らに教材を売り付けるのに成功した販売員は、別紙(二)の「報酬」欄記載の歩合給を受領していた。本件教材の売買代金のほぼ半額が販売員の歩合給に充てられた。
補助参加人の販売員にとっては、例えば控訴人Aから獲得したような契約を月に二件とれば、月額五〇万円近い収入を得ることができたのである。
2 本件売買契約の締結に至る経過
(一) 補助参加人は、別紙(一)の「勧誘の態様」欄記載のとおり、高校受験を控えた中学生を持つ控訴人ら母親に焦点を当て、家庭教師の無料体験学習のチラシ(乙四、五)を配り、「家庭教師の無料体験学習」等の口実を設けて、電話でアポイントをとった。
そして、別紙(一)の「セールスマンの肩書」欄記載のとおり、補助参加人の従業員らが単なる販売員であるのに、いかにも専門の学習指導、教育の担当者であるかのごとき「学習指導会本部長」「同指導員」などの肩書を付した名刺(乙六、乙四六)を持参し、控訴人ら宅を訪れた。
(二) 控訴人らは、父親名義で契約した二人の母親も含めて、いずれも、子供が勉強嫌いで、学校の授業にもついていけず、成績も悪いことから、普段から頭を痛めていた母親ばかりであった。販売員らは、無料体験学習という口実で控訴人らの自宅を訪問しているが、無料体験学習などは誰にも一度もしたことがない。訪問当初は、本件教材の販売目的も隠していた。
補助参加人の販売員らは、別紙(一)の「セールストーク」欄記載のとおり、控訴人らに対し、次の(1)(2)の虚偽トーク(話)を繰り返し述べて、本件教材の購入を勧誘した。
(1) 家庭教師を頼むには、あるいは家庭教師が教えるには、本件教材が是非とも必要である。家庭教師は、近畿一円で八〇〇〇名以上の講師のなかから、コンピューターで相性のよい先生を選ぶ(乙九、一〇)。家庭教師の能力は補助参加人がチェックする。家庭教師は途中で変更も可能である。
(2) 本件教材の指導方法は、補助参加人が責任を持って家庭教師に講習する。家庭教師は本件教材により分かるように教えるので、どんな子供についても成績を上げられる。家庭教師は、テスト前に問題を予想してアドバイスをし、定期テストの点検、返送もする。
(三) 控訴人ら(控訴人Gを除く)は、補助参加人が、学校の授業についていけず、成績も良くなくて、めざす高校受験に不安のある我が子を、高校合格まで面倒を見てくれる優秀な家庭教師を紹介してくれるというので、これを信じ補助参加人との間で家庭教師派遣契約を締結した(乙七)。
家庭教師の派遣代金は、教材代金とは別料金であり、入会金三万円を支払った上、例えば、毎週二回、月八回の家庭教師訪問で、月額二万六〇〇〇円であった(乙七、八)。それ故、本件教材代金には、家庭教師派遣の対価に相当するものは含まれていなかった。
(四) 控訴人ら(控訴人Gを除く)としては、子供に勉強を教えてくれる家庭教師を望んだのであり、本件教材を特に必要としたものではなかった。しかし、補助参加人の販売員から、「家庭教師を頼むには、あるいは家庭教師が教えるには、本件教材が是非とも必要」と言われたことから、教材が家庭教師と一体、不可分のものと考え、本件教材も購入させられたものである。
すなわち、補助参加人の販売員らは、控訴人ら(控訴人Gを除く)に対し、家庭教師派遣を前面に押し出し、「いい先生を派遣するので、必ず成績が上がる。絶対に公立高校に、あるいは望みの高校に入らせる。」と嘘を言って、その学習効果を誇大に宣伝して、本件教材を売り付けたのである。
(五) もっとも、控訴人Gについては、少し事情が異なる。
補助参加人の販売員甲野太郎は、控訴人Gの妻G’に対しても、当初は、他の控訴人らと同様に、家庭教師の派遣と本件教材の購入を勧誘した。しかし、G’は甲野に対し、娘には家庭教師を頼んでまで勉強をする気がないと断った。すると、甲野はG’に対し、「気にいらなければクーリングオフとは別に途中解約ができる。」「分からないことがあれば、私自身が教えに来る。」と言って、家庭教師の派遣とは切り離して、本件教材の購入を勧誘した。
そこで、G’は、本件教材の内容が気にいらなければ途中で解約したらいいわと思い、それに、分からないところがあれば、甲野が教えに来てくれるとも言うので、本件教材を買うことに決めた(乙三五、証人G’)。
(六) ところで、補助参加人の販売員らは、教材の販売を勧誘するに当たって、控訴人らに対し、持参のカタログや教材を示し、一応の説明らしきことはしている。
しかし、同販売員らは、控訴人らに対し、販売する教材の種類、内容、数量等について具体的な説明まではしておらず、控訴人らも、販売員のセールストークに気を奪われ、教材の種類、内容、数量等についての吟味を怠っていた。
そして、補助参加人の販売員らは、そのトークとは裏腹に、控訴人らの子供の学習能力、意欲等の適性に合わせるのではなく、控訴人ら顧客の顔色、懐具合、注意力等を見て、販売する教材の種類、内容、数量を決めて売り付けていた。個々の子供の学力、意欲や勉強目的に合わせて教材が選択され、販売されたものではない。
すなわち、販売員らは、防御(ガード)が甘くたやすく大量の教材を売り込めそうな顧客には、全学年にわたって多くの科目の教材を多数売り付け、比較的防御(ガード)が堅く大量の教材を売り込むのが困難な顧客には、売り付ける教材の種類、数量を減らしていた。
3 家庭教師の資質、教材の使用状況等
(一) 補助参加人が派遣した家庭教師は、補助参加人が大学の校門などで声をかけて一般募集した単なるアルバイト学生であり、教育、指導のプロではなかった。
補助参加人の販売員らは、控訴人らに対し、近畿一円で八〇〇〇名以上の講師のなかから、コンピューターで相性のよい先生をあなたの子供の家庭教師に選ぶと言って、顧客に教材を売り込んでいた。しかし、その実体は、補助参加人が控訴人ら(控訴人Gを除く)宅の近所に居住するアルバイト学生を、右控訴人らに家庭教師として紹介していたにすぎない。
(二) 補助参加人は、アルバイト学生を家庭教師として登録した後も、同学生らに対し、右控訴人らが購入した教材に即した教授法等の指導は全くしていなかった。右控訴人ら宅に派遣されたアルバイト学生らは、補助参加人らから、「販売した教材を使って教えるように」とも指示されていなかったし、本件教材と子供の学力、意欲に合わせた指導方法の講習なども受けていなかった。補助参加人は、右控訴人ら顧客宅に派遣した家庭教師について、責任を持って管理、監督、指導した事実もない。
(三) 控訴人ら各人毎の家庭教師と教材の使用状況は、別紙(一)の「家庭教師と教材の使用」欄記載のとおりである。ただし、控訴人Aの同欄①の記載を、次のとおり改める。
控訴人A宅に派遣された家庭教師は、本件教材を使用して教えてはいたが、「本件教材は子供のレベルには合っておらず難しすぎる」との理由から、余り使わなかった。控訴人Aの子供は、成績がずっと悪いままか、むしろ下がっており、控訴人Aは、補助参加人やその販売員に対し、セールストークとは違うと苦情を言い続けていた。
(四) 控訴人らの子供は、いずれも勉強が嫌いで、学校の授業についていけず、成績もよくない者ばかりであった。そのため、控訴人ら(控訴人Gを除く)宅に派遣された家庭教師は、前示(三)のとおり、本件教材のレベルが子供らに合っておらず、難しすぎるとの理由で、本件教材をあまり使わなかったか、殆ど使わなかった。
そもそも、本件教材自体が、個々の子供の学力、意欲や勉強目的に合わせて選択され、販売されたものではない。それなのに、本件教材を使っての指導方法の講習も受けていないアルバイト学生が、勉強嫌いの子供達を相手に、本件教材を使って上手に教えることはもともと無理な話しであった。
控訴人ら宅には、本件売買契約後一週間から二週間位後に、別紙(二)の「購入教材」欄記載の大量の教材が、宅配便でドサッと送られてきた。元々勉強嫌いの子供らであるから、大量の教材を見てうんざりしてしまい、かえって勉学の意欲も一層萎えてしまったというのが実状である。
(五) もっとも、控訴人Gについては、前示2(五)のとおり、他の控訴人らと事情が異なっていた。
控訴人Gの妻G’は、前示のとおり、販売員の甲野が、「途中解約ができる、私自身が教えに来る。」というので、これを信じ、本件教材を買うことにしたのである。
ところが、後日(クーリングオフの期間が経過した頃)おびただしい分量の教材が送られてきた。これを見た娘が、即座に、「この本では勉強する気になれない」と言った。そこで、G’は甲野に解約を申し出た。しかし、甲野は、あれこれと言い逃れをして解約を認めなかった。また、甲野は、G’から勉強のことについて質問されても、外のことをしゃべり続けて質問をはぐらかし、一度も教えに来なかった(乙三五、証人G’)。
三 第二契約関係
証拠(乙一ないし三、乙一六、乙一七、乙一九ないし二三、乙二八ないし三六、乙三八、乙三九、丙七ないし一六〔枝番を含む〕、丙一七〔一部〕、丙二四及び二五〔枝番を含む〕、証人G’、証人乙川次郎〔一部〕、控訴人A)、及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
1 本部直轄管理システムの内容
(一) 補助参加人は、平成六年一〇月に本部教務課なる組織を設け、乙川次郎教務課長が考えついた「本部直轄管理システム」に基づき、新たに教材の二重売りを始めた。
(二) 右「本部直轄管理システム」の内容は、次の(1)ないし(5)のとおりである。乙川課長ないし補助参加人は、「本部直轄管理システム」が、家庭教師による学習指導とは異なる生徒自身の自主学習を体得させるための新しい指導方法であるかのように装った。そして、一度教材を売り付けた顧客に対し、再度教材を売り付ける新手の方法を考えついた。これは、乙川課長らの、一度騙された顧客(第一契約を締結した者)は、通常人に比べて騙しやすいとの体験から出たものである(乙三)。
(1) 対象者
補助参加人から教材を購入した顧客の子供(生徒)のうち、家庭教師による指導でも成績が上がらない生徒。
(2) 計画表による学習管理
勉強可能な時間を生徒自身に書かせた学習計画表と、その学習内容の具体的な進め方を各教科毎にまとめた冊子とにより、本部教務課が生徒の学習内容を管理、監督するかの如く装う。
(3) 週毎の電話
第二契約後二か月間、本部教務課から週毎に一度生徒に電話を入れて、学習進行具合を聴取したり、質問などに対応するかの如く装う。
(4) ノートの提出
生徒が、学習計画表をもとに実際に学習したノート類を本部教務課宛てに提出させ、あたかも本部教務課で生徒の学習状況を管理、掌握しているかの如く装う。
(5) 訪問指導
生徒が自主的に勉強することを怠っている場合に、親からの申告に基づき、本部教務課から生徒の自宅にまで出張し、生徒を勉強させるために叱咤激励し、生徒を個別指導しているかの如く装う。
(三) 「本部直轄管理システム」に基づく教材二重売りの具体的な手口は、以下のとおりである(乙三)。
(1) 乙川課長らは、補助参加人から教材を購入した顧客に対し、子供の学習効果を確かめるなどと称して電話をかけ、子供の学校での成績を聞き出して、成績の上がらない子供を探し出す。
(2) そして、その子供の母親(顧客)に対し、「本部教務課の指導員が一度点検に行く。」などと言って、「ワイドグループ本部教務課課長」の名刺(乙一六)を持った乙川課長、その他の販売員が顧客宅を訪問する。
(3) 右乙川課長らは、右顧客宅で、乙川課長が作成した「セールストーク集」(乙二一)に基づき、顧客に対し、補助参加人が派遣した家庭教師であるにもかかわらず、現在の家庭教師による勉強方法では駄目である旨強調して、家庭教師を辞めさせるように仕向ける。
(4) そうして、乙川課長らは、「本部直轄にしなさい。子供に勉強する気を起こさせる指導をする。料金も今までの家庭教師代と変わらない。」等と述べる。そして、いかにも子供に勉強する気を起こさせる指導をし、子供の成績をあげてみせるような説明を真しやかにして、本部直轄管理システムに切り替えるように説得する。
(5) その上で、乙川課長らは、本部直轄管理システムによる指導に必要な教材であるとして、第一契約で売り込んだ教材とは異なる教材(その殆どがビルダー)の購入契約を締結させる。
(四) しかし、本部教務課には、教育に携わったことのある専門の指導員などは一人もおらず、顧客が期待したような専門の指導員の派遣や指導などができる体制にはなかった。実際、本部教務課に所属した者は、大学卒業者さえ一人もおらず、高卒者か高校中退者が最大でも四、五名いたに過ぎない(乙三)。
2 第二契約に基づく教材の二重売り
(一) このようにして、補助参加人は、本部直轄管理システムの名目で、第一契約から半年前後経過した頃、現に派遣している家庭教師を辞めさせることを前提に、顧客との間で、次の内容の再度の教材売買契約(第二契約)を締結した。
(1) 売買代金額は、一九万八〇〇〇円から四九万九〇〇〇円。
(2) 売り付けた教材
イ 大半の顧客
(イ) ビルダー(中一ないし中三、五科目)(生徒用及び指導書)。
(ロ) リンガフォンジャパン株式会社の教科書チェックリフト全一七冊。
ロ 一部の顧客
第一契約でビルダーを売り付けた顧客には、ポールポジション(中一ないし中三、五教科)。
(3) 代金支払方法
日本総合信用株式会社が顧客に代わって代金を立替払し、顧客は同会社に対し割賦払する。
(二) 補助参加人は、第二契約の対象教材の殆どが同じビルダー等であるのに、その代金は一九万八〇〇〇円から四九万九〇〇〇円と差を設けて売り付けていた。これは、補助参加人が全く同じ教材を売るにもかかわらず、大金を出しそうな顧客には高値で売り付け、大金を出しそうにない顧客にはそれよりも安い価額で売却したことによる。
ビルダー等の仕入価額は二万一六八〇円であるから、補助参加人がこれを一番安い一九万八〇〇〇円で売却した場合でも、一七万円以上もの利鞘を稼ぐことができた。
(三) そして、控訴人らについても、一三名のうち一一名(夫名義で契約した者を含む)までもが、補助参加人の販売員の口車に乗せられ、第二契約の締結により教材の二重買いをさせられている。
控訴人Aも、乙川課長のセールストークに乗せられて、一度は第二契約を締結させられた。しかし、控訴人Aは、教材が自宅に送られてくる前に、また騙されているのではないかと気づき、クーリングオフの手続をとって解約したため、危うく難を免れた。控訴人Cも、補助参加人の販売員から、本部直轄管理システムを名目とする教材の二重売り(第二契約)の勧誘を受けたが、今度は断ったため被害に遭わなかった。
このように、控訴人ら一三名全員が、補助参加人の販売員から教材の二重売り(第二契約)の勧誘を受けている。
(四) 以上のとおり、控訴人ら一三名中の一一名までもが、虚偽トークにより本部直轄管理システムを真実と誤信し、これを名目とした教材の二重売買契約(第二契約)を締結させられている。そして、右一一名中の控訴人Gを除く全員が、補助参加人から命ぜられるままに、補助参加人から派遣されていた家庭教師を解任してしまっている。
しかも、補助参加人は、当初から、右一一名の子供に対する効果的な学習指導等は何もしなかった。自ら勉強してノートを送付して来た子供に対しても、何の指導もしていない(乙三)。
第四 詐欺の成否
一 第二契約と補助参加人による詐欺
前認定第三の三の事実(三八頁以下)によると、補助参加人が「本部直轄管理システム」を仮装して、控訴人ら(控訴人A、同Cを除く)との間で締結した第二契約(教材の二重売り)は、補助参加人の詐欺によるものであることが明らかである。
二 第一契約と補助参加人による詐欺
1 本件売買契約と訪問販売法違反
(一) 訪問販売法の規定
(1) 契約書面の交付
イ 訪問販売業者が指定商品を訪問販売する場合は、契約締結の段階で、取引条件を明らかにした契約書面を購入者に交付しなければならない(訪問販売法五条、四条)。本件教材も、右指定商品に指定されている(訪問販売法二条、同施行令二条一項別表第一の四十五)。
ロ 訪問販売法が定めている取引条件として、本件では、特に次の(イ)(ロ)(ハ)が問題となる。これらはいずれも、契約した商品を特定するための事項、及びその数量、販売価格に関する事項等である。
(イ) 商品の販売価格(訪問販売法五条一項柱書、四条一号)。
(ロ) 商品名及び商品の商標、商品の種類、数量(訪問販売法五条一項柱書、四条五号、同施行規則三条四号ないし六号)。
(ハ) 契約の申込の撤回などクーリングオフに関する事項(訪問販売法五条一項柱書、四条四号、同施行規則六条)。
ハ 契約書面には、書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載しなければならない(同施行規則四条二項)。
これは、消費者が契約書面の記載事項をよく読んで取引条件を確認しておくことが、後日のトラブルを防ぐ意味からも重要であるので、特に契約者の注意を喚起する趣旨から設けられた規定である。
(2) 不実事項の告知禁止
販売業者は、訪問販売に係る売買契約の締結について勧誘するに際し、当該売買契約に関する事項であって、購入者の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき、不実のことを告げる行為をしてはならない(訪問販売法五条の二第一項)。
(二) 取引条件等を記載した契約書面の不交付
(1) 控訴人らが本件売買契約に基づき購入した教材は、別紙(二)の「購入教材」欄に記載のとおりである(前示第三の二1(二)―二二頁)。
ところが、補助参加人の販売員らは、控訴人らの自宅を訪問し、控訴人らと本件売買契約を締結した際、契約書面としては、控訴人らに対し、ワイド教育クレジット契約書又はワイド総合クレジット契約書を交付しただけである。
そこには、商品名として、別紙(二)の「契約書の商品名」欄記載のとおり、「ワイド受験B・P」などと記載されているのみである。商品名及び商品の商標、商品の種類、数量、クーリングオフに関する事項は記載されていない(前示第三の二1(三)―二四、二五頁)。補助参加人は、訪問販売法施行規則四条二項が命じている「書面の内容を十分に読むべき旨を赤枠の中に赤字で記載」することも、全く履行していなかった。
(2) 別紙(二)の「契約書の商品名」欄と「購入教材」欄を比較対照すれば、契約書の商品名の記載が同じ「ワイド受験B・P」であっても、控訴人らが実際に購入した教材の内容がそれぞれ異なっていることが分かる。
例えば、控訴人Aが購入した教材は、ポールポジション(中一ないし中三、五科目)と、ポイント5(中二・中三、五科目)である(別紙(二)のNo.1参照)。控訴人Aは、一五種類(三学年分×五教科分)のポールポジションと、一〇種類(二学年分×五教科分)のポイント5、以上合計二五種類の教材を購入している。ところが、契約書には、商品名として、ただ「ワイド受験B・P」と記載されているだけである。
この記載では、売買契約の対象が特定しておらず、何を買ったのか全く不明で、商品名及びその商標、商品の種類、数量、その販売価格が記載されているとはいえない。
(3) 補助参加人の販売方法は、以上の(1)(2)の各事項を契約書面に記載して交付しなければならないと定めている訪問販売法五条一項柱書、同法四条一号、四号、五号、同施行規則三条四号ないし六号、四条二項、六条に違反している。
そして、もし、補助参加人の販売員が、控訴人Aと本件売買契約を締結するに際して、前示各事項を正しく記載した契約書面を交付しておれば、控訴人Aは、本件教材を購入しなかったか、クーリングオフの期間内(右書面交付日から八日以内、訪問販売法六条一項一号)に、本件売買契約を解除していた可能性が大である。その理由は、以下のとおりである。
イ 補助参加人の販売員らは、控訴人らに対し、販売する教材の種類、内容、数量等について具体的な説明をしていない。控訴人らも、販売員のセールストークに気を奪われ、教材の種類、内容、数量等についての吟味を怠っていた(前示第三の二2(六)―三三頁)。
ロ そのため、もし、販売員が控訴人Aに前示契約書面を交付し、これに訪問販売法所定の商品名及びその商標、商品の種類、数量、販売価格(具体的には、一五種類のポールポジションと一〇種類のポイント5、それに対応する販売価額)や、クーリングオフに関する事項が記載され、契約書面の内容を十分に読むべき旨が赤枠の中に赤字で注記されていたとしよう。そうすれば、控訴人Aは、その書面を読み冷静に返り、次のような疑念を持ったであろうことが推認できる。
(イ) 中学二年でそうでなくても勉強嫌いの子供が、一年から三年までの全教科の教材ポールポジションと、二、三年の全教科の教材ポイント5をやりこなせるのか。こんなに多くの教材を目の当たりにすれば、うんざりして勉強する気が一層萎えてしまうのではないか。
(ロ) それに、中学二年の子供が、現時点(平成六年一〇月六日)で、全学年、全教科の教材を購入する必要があるのか。しかも、二、三年分は二社の出版元の教材が重複しており、この点でも疑問がある。とりあえず、必要な教材だけを購入し、必要の都度、その時点で追加の教材を購入すればよいのではないか。
(ハ) それに、中学生の学習用教材の売買代金額が四九万一〇〇〇円というのはあまりにも高すぎる。家庭教師に来てもらうとしても、今直ちに必要だと思われる教材だけをとりあえず購入することにしたい。
(4) 同じことは、他の控訴人全員についてもいえることである。
(三) 不実事項の告知と誤信
(1) 補助参加人の販売員らは、前示のとおり、本件教材の勧誘に際し、控訴人らに対し虚偽の事実を告げている(控訴人ら〔控訴人Gを除く〕につき前示第三の二2(二)(三)(四)―二八頁〜三一頁、控訴人Gにつき前示同(五)―三一、三二頁)。
この告知した事実は、いずれも前示のとおり不実のものであった(控訴人ら〔控訴人Gを除く〕につき前示第三の二3(一)(二)(三)(四)―三四頁〜三七頁、控訴人Gにつき前示同(五)―三七、三八頁)。
補助参加人の右不実事項の告知は、訪問販売法五条の二第一項(不実事項の告知禁止)に違反する行為である。
(2) 控訴人らは、販売員らの虚偽の説明を真実と信じたために、本件教材の購入を決断し、本件売買契約を締結したと認められる。すなわち、控訴人ら(控訴人Gを除く)は、補助参加人の販売員らの前示第三の二2(二)(三)(四)の説明が嘘であり、その実体は前示第三の二3(一)(二)(三)(四)のとおりであることを知っておれば、本件売買契約を締結していない(乙二、乙二八ないし三四、控訴人A)。
控訴人Gの妻G’は、販売員が「気にいらなければ途中解約ができる。」「分からないことがあれば私が教えに行く。」などと言わなければ、本件売買契約を締結しなかった(乙三五、証人G)。
2 補助参加人の詐欺
以上の1(二)(取引条件等を記載した契約書面の不交付)、1(三)(不実事項の告知と誤信)の事実、並びに次の(一)(二)の事実に照らせば、本件売買契約は、いずれも補助参加人が虚偽の事実を告げて、これを真実であると控訴人らに誤信させて契約を成立させたものであり、補助参加人の詐欺によるものであることが認められる。
(一) 異常に高額な教材販売価額等
補助参加人は控訴人らに対し、二万二八〇〇円から一一万八一四一円で仕入れた本件教材を、一四万六〇〇〇円から四九万一〇〇〇円までの価額で売り付けていた(前示第三の二1(二)―二四頁)。これらの販売価額は、前示のとおり、リコー教育機器、株式会社学書が定めていた定価を大幅に上回る価額であった(前示第三の二1(四)―二五頁)。
控訴人らは一度に大量の教材を購入しているのだから、補助参加人が控訴人らに対し、定価よりも安い価額で本件教材を販売することは考えられても、定価よりも高い価額で本件教材を販売することなど、正常な取引では考えられないことである。そして、契約を獲得してきた販売員には、販売価額のほぼ半分を報酬として取得させていたのである(前示第三の二1(六)―二七頁)。
補助参加人の販売員らは、子供の学力、意欲等の適性ではなく、親である控訴人らの顔色、懐具合等を見て、販売する教材の種類、内容、数量を決めていたのである。個々の子供の学力等の適性に合わせて教材が選択され、販売されていない(前示第三の二2(六)―三三、三四頁)。
そして、補助参加人は、高額の教材を販売可能な顧客については、信用のあるリコー教育機器の教材(ポイント5)と、大幅な利幅を稼げる日本教育出版の教材(ポールポジション)とを抱合せにして、販売している(前示第三の二1(五)―二五頁、二六頁)。
(二) 第二契約に基づく教材の二重売買
(1) 補助参加人は、平成六年一〇月に本部教務課なる組織を設け、「本部直轄管理システム」なるものに基づき、新たに教材の二重売りを始めている。しかし、前示のとおり、同システムに基づく教材の二重売り(第二契約)が詐欺商法であることは明らかである(前示第三の三1(一)―三九頁、第四の一―四八頁)
ところで、本件売買契約(第一契約)一三件のうち、七件が平成六年一〇月以降に契約され、六件が平成六年九月以前に契約されている(別紙(二)の契約日欄参照)。したがって、補助参加人が、第一契約の全てについて、同契約締結時点で既に、予め将来第二契約による詐欺商法まで目論み、そのために第一契約を締結したとまでは認められない。
(2) しかし、補助参加人は、控訴人ら(控訴人Gを除く)に対し、高校合格まで面倒を見る優秀な家庭教師を紹介する、家庭教師を頼むには本件教材が是非とも必要であると虚偽の説明をして、本件教材を購入させている(前示第三の二2(二)(三)(四)―二八頁〜三一頁)が、その説明自体が前示のとおり不実告知にあたる。
ところが、その同じ補助参加人が、前示のとおり、第一契約から六か月前後経過した時点で、今度は、既に派遣している家庭教師を辞めさせた上で、控訴人ら(控訴人A、同Cを除く)との間で、再度の教材売買契約(第二契約)を締結している。控訴人Gとの間でも第二契約を締結しており、控訴人Aとの間でも一度は第二契約の締結に成功しており、控訴人Cに対しても第二契約締結の勧誘をしている(前示第三の三2(一)(三)―四四、四六、四七頁)。
(3) これらの行為は、まじめに商いを営んでいる教材販売会社のすることとは到底思われない。このように、補助参加人会社が組織ぐるみで詐欺を計画実行し、第二契約の締結に奔走していた事実は、翻って、第一契約についての詐欺の成否を判定するに当たっても、その事情(間接事実)の一つとして考慮すべきものである。
第五 結論
一 以上によると、本件売買契約は、いずれも補助参加人の詐欺によるものであり、控訴人らの取消の意思表示により無効となったものである。
二 そして、本件教材は、割賦販売法二条四項、同施行令別表第七で指定商品に指定されているので、控訴人らは、割賦販売法三〇条の四第一項(抗弁の対抗)に基づき、被控訴人に対し、前示補助参加人に生じた詐欺取消の事由を対抗することができ、本件立替金(割賦金)の支払を拒絶できる。
三 したがって、被控訴人の本件立替金請求は、いずれも理由がないのでこれを棄却すべきである。よって、これと異なる原判決を取り消し、被控訴人の本訴請求を棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官吉川義春 裁判官紙浦健二 裁判官小田耕治は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官吉川義春)
別紙(一)、(二)<省略>